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2026.10.26Performance

【取材レポ】Boundaries research project vol.3『CROSSING』|視点が交差するとき、見えてくるもの

【取材レポ】Boundaries research project vol.3『CROSSING』|視点が交差するとき、見えてくるもの

2026年9月26日・27日、THE HALL YOKOHAMA。

振付家・山井絵里奈氏が率いる Boundaries research project の第3回公演『CROSSING』が上演されました。

クラシックバレエを素地に持つダンサー、クリエイター、演奏家。
異なるジャンルと世代が“交差”したとき、表現はどう変わるのか。

公演後、演出・振付の山井絵里奈さんにインタビューしました。
作品の成り立ちと、「境界線」を見つめ続ける理由に迫ります。

特別インタビュー:山井絵里奈が語る『CROSSING』

公演後、演出・振付を手がけた山井絵里奈さんにお話を伺いました。
8つの作品がどこから生まれ、どこへ向かおうとしているのか。

作品が生まれる、最初のひと筆

スペシャルクロストーク
スペシャルクロストーク ©Joseph Marcinsky

今回は全作品を山井さんが振付されたと伺いました。
ひとつの作品を生み出すとき、いちばん最初のステップはどこから始まるのでしょうか。何からインスピレーションを受けることが多いですか。

今回の公演では、5作品が新作、2作品がリメイク作品です。
作品の創り方はさまざまですが、踊ってくださるダンサーありきで考えることが多いです。

まずはダンサーと話したり、一緒に少し動いてみたり。
そのコミュニケーションの中から、インスピレーションをいただきます。
そして、そのダンサーのことをすごく想います(笑)。
その方に興味を注ぐ、という感じでしょうか。

ある程度の準備はして行くのですが、実際に会って、話して、一緒に動いて、そのダンサーの魅力に直接触れると、事前に想像していたこととは違う部分がたくさん見えてきます。
そこで胸が高鳴り、一気にイメージが膨らんでいくんです。

もともと頭の中にストックしてあるインスピレーションの種に、そのイメージがうまく引っかかると、作品が良い方向へ動きはじめます。
自分が興味を持っていることと、興味を注ぐダンサーとが重なり合う瞬間です。
そのどちらも、より深く掘り下げていく楽しみがあります。

映像、生演奏と交差する

今回は映像やヴァイオリンの生演奏など、さまざまなものとのコラボレーションが見られました。
こうした要素を舞台に取り入れられたのは、どのような意図からでしょうか。

常に「新たな価値観や可能性の提示」をしたいと考えています。
既存の枠組みをアップデートして、観客やダンサー、クリエイター、そして私自身の視点や選択肢を広げるようなプロジェクトにしていけたらと思っています。

その中で、「問い」と「体験設計」がキーになるのではないかと考えました。
観客参加型の『椅子取りゲーム!』に始まり、今回新たに、映像や生演奏を用いたコラボレーション作品にも挑戦することにしたんです。

コンクールから舞台へ ― 子どもたちとの稽古場

『Zone』
『Zone』 ©Joseph Marcinsky

スリーピング・ビューティー全日本バレエコンクールで出演権を得た子どもたちが舞台に立っていました。
普段から継続的に指導されているわけではないお子さんたちとの稽古は、いかがでしたか。印象に残っているやりとりがあれば教えてください。

今回の試みは私にとって初めての経験でしたが、最初から最後まで気づきの連続で、出演してくれた若いダンサーたちと素晴らしい時間を重ねることができました。
以前から「創作活動」と「若手の育成」の両輪を大切に歩んできたので、このような機会を持てたことを幸せに思います。

ほとんどが「はじめまして」同士の集まりでした。
ワークショップや毎回のクラスを通じて共通の身体言語を育て、インプロビゼーション(即興)で一人ひとりのスキルアップや発見につなげ、ディスカッションを通じてお互いを知っていきました。
年齢に幅はありましたが、互いをリスペクトし合える、本当に素晴らしいメンバーだったと思います。

また今回は、現役のプロダンサーお2人との共演に加え、現在リヨン・オペラ座で活躍されている加藤美羽さんにアシスタントとして入っていただきました。
素晴らしいムーヴメントを、間近で体感してもらえたと思います。

私自身、幼い頃から子役として多くの舞台を経験させていただきました。
その中で、現役のプロダンサーとの共演やリハーサルが、どれだけ自分の糧になったかを身をもって感じてきました。
だからこそ、今回の取り組みができて本当に良かったと思っています。

「Boundaries」を掲げ続ける理由

団体名に「境界線」という言葉を置き、3回の公演を重ねてこられました。
続けてきたからこそ見えてきたものがあれば、お聞かせください。

団体の理念には、“インタラクティブな関係性”(インタラクティブ=相互作用)というキーワードを掲げています。

人と人との関係の中では、同じ出来事でも、感じることや思うことの度合いは人それぞれです。
1人としてぴったり同じ、ということはなかなかありません。
それでも、互いをリスペクトし合う中で生まれてくるものを大切にしていくことで、良い創造性を積み上げていけると感じています。

専門の技術者と、振付家やダンサー。
ダンサーと振付家。
ダンサーと観客。
そのすべてが、常にインタラクティブな関係を築けるようなプロジェクトを目指しています。

これから、この場で残したいもの

次回 vol.4 の構想や、この活動を通してダンサーや観客に残したいものについて、いまお考えのことを教えてください。

vol.3を終えたばかりで、今はほっとしているところです(笑)。
次回の構想はこれからゆっくり考えたいと思っていて、まだ具体的には決まっていません。
それでも、これからやりたいことや挑戦してみたいことは、まだたくさんあります。
個人の力では難しいと感じることも増えてきたので、クリアすべき課題を乗り越えていかなければと考えています。

とはいえ、あまり背伸びはせず、しっかりと中身のあるものを創ることを大切にしたい。
コンパクトでも、このプロジェクトに純粋に共感してくださるダンサーやクリエイターと一緒に、新しい挑戦を続けていきたいと思っています。
そして、それをより多くの方に観ていただけるよう力を尽くしたいです。

根っこにある“インタラクティブな関係性”を大切に、観客の皆さまはもちろん、創り手や演者も含めて、関わるすべての方に「観に来てよかった」「参加してよかった」と思ってもらえる取り組みを目指していきたいです。
簡単なようで簡単ではないことだと、これまでのダンサー経験から実感しています。
振付家として、プロデュースする側として、まだまだ精進していかなければならないところです。

こうした試みが、クラシックバレエダンサーの新たな可能性として、次の世代にもつながっていけばと願っています。

舞台レポート

『Samsara』
『Samsara』 ©Joseph Marcinsky

上演された8作品

新作5作品とリメイク2作品に、幕開けの『椅子取りゲーム!』を加えた8作品が、2回の休憩をはさんで上演されました。

  • 0.『椅子取りゲーム!』 出演ダンサー全員
  • 1.『Shoes』 仲田直樹・中村優希
  • 2.『Self-layer garden』 水井駿介・辻梨花(映像:工藤史皓)
  • 3.『Samsara』 福岡雄大(映像:工藤史皓)
  • 4.『Zone』 永堀瑠唯・辻梨花/ジュニアダンサー9名
  • 5.『Sea of love』 福岡雄大・木村優里・水井駿介(ヴァイオリン:滝千春)
  • 6.『Rule 2026’』 仲田直樹・中村優希・永堀瑠唯
  • 7.『Where abouts』 木村優里(ヴァイオリン:滝千春)
『Rule 2026’』
『Rule 2026’』 ©Joseph Marcinsky

舞台から

4.『Zone』

『Zone』
『Zone』 ©Joseph Marcinsky

出演:永堀瑠唯・辻梨花/ジュニアダンサー(阿井陽南乃・大村あいり・齋藤朱莉・竹村伊織・千葉麻央・角田悠奈・角田理瑛子・古川千沙・古瀬望)

スリーピング・ビューティー全日本バレエコンクールでスカラシップを受賞したジュニアダンサー9名と、永堀瑠唯さん・辻梨花さんによる作品です。
リンゴを善悪の知識の象徴として、自分を軸にした考えから、社会や他者を軸にした考えを知るときの不安や悩みが描かれます。

個と社会、マジョリティとマイノリティ、善と悪。
見る視点によって変わっていく物事を、まさに成長の途中にいる若いダンサーたちが踊ることで、その意味がいっそう強まっていたように感じました。

5.『Sea of love』

『Sea of love』
『Sea of love』 ©Joseph Marcinsky

出演:福岡雄大・木村優里・水井駿介(ヴァイオリン:滝千春)

新国立劇場バレエ団で主役級を踊る福岡雄大さん・木村優里さん・水井駿介さんの3人に、滝千春さんのヴァイオリンが加わった作品です。
先人が残した詩になぞらえ、ダンサーによる朗読と身体表現で、さまざまな愛が描かれます。

題は「愛に満ちた世界」。
では、3人の登場人物にとっての愛とは何だったのか。
残酷に見える場面も、実は大きな愛に包まれているのかもしれません。
それは時が経ったり、立場が変わったりしないと見えないものなのかもしれない、と考えさせられました。

『Sea of love』
『Sea of love』 ©Joseph Marcinsky

ヴァイオリンの生演奏は、Boundaries research project として今回初めての試みです。
滝千春さんはこの作品と『Where abouts』に出演し、ダンサーと同じ舞台に立って演奏しました。

8作品を通して見えたもの

カーテンコール
カーテンコール ©Joseph Marcinsky

プログラムの言葉を借りれば、「Crossing」は交差点。
所属の異なるプロのダンサー、コンクールから選ばれたジュニアダンサー、映像作家、ヴァイオリニストが、ひとつの舞台で交わりました。

作品を通して繰り返し感じたのは、同じ出来事でも、どこに立って、いつ見るかで、姿が変わるということ。
さまざまな視点が交差するこの公演そのものが、その問いを客席に手渡していたように思います。

開演前スペシャルクロストーク

スペシャルクロストーク
スペシャルクロストーク ©Joseph Marcinsky

プレミアムチケットをお持ちの方への特典として、各回の開演前に約10分間のスペシャルクロストークが行われました。
登壇者は回ごとに替わり、3回それぞれ違う顔ぶれで作品の話が交わされました。

  • 9月26日(土)18:00公演:木村優里・滝千春
  • 9月27日(日)12:30公演:中村優希・仲田直樹・永堀瑠唯
  • 9月27日(日)17:30公演:福岡雄大・水井駿介・辻梨花

山井絵里奈 プロフィール

©︎ Akinori Ito

山井 絵里奈 Erina Yamai

6歳よりバレエを始め、AMステューデンツに抜擢され、牧阿佐美、三谷恭三に師事。スカラシップによりパリへ留学。帰国後、橘バレエ学校を卒業し、牧阿佐美バレヱ団に入団。8年間活動したのち、フリーランスとして活動。二見一幸、辻本知彦、中村恩恵、キミホ・ハルバート、Julie Anne Stanzak(ヴッパタール舞踊団)など、国内外の振付家の作品に出演。

小澤征爾総監督・指揮 サイトウキネンフェスティバル松本のオペラ(リオネル・オッシュ振付)・ミュージカル(ウィル・タケット振付)、ヘアショー(ジャン・フランソワーズ・ベラン演出)のほか、数々のアーティストのコンサートや、演奏家との即興パフォーマンスに出演。

近年ではディズニー映画「ウィッシュ」特別映像や、株式会社HIBINOの開発事業、SONYのCM、映画など、さまざまな媒体で振付家として活動の場を広げている。

また、数々の国際コンクールでの振付・指導で上位入賞へ導き、後進の育成にも力を入れている。

2024年よりBoundaries research projectを主宰し、演出・振付・プロデュースを行っている。

出演

福岡雄大(新国立劇場バレエ団)
木村優里(新国立劇場バレエ団)
水井駿介(新国立劇場バレエ団)
仲田直樹(スターダンサーズ・バレエ団)
中村優希(Somatic Field Project)
永堀瑠唯(NBAバレエ団)
辻梨花(元K-BALLET TOKYO)

ヴァイオリン:滝千春

ジュニアダンサー:阿井陽南乃・大村あいり・齋藤朱莉・竹村伊織・千葉麻央・角田悠奈・角田理瑛子・古川千沙・古瀬望
(スリーピング・ビューティー全日本バレエコンクール コンテンポラリー部門のスカラシップ受賞者)

info

Boundaries research project について

『Self-layer garden』
『Self-layer garden』 ©Joseph Marcinsky

あらゆる表現者・専門家とのジャンルの垣根を超えた活動や、多様な人々との関係性を越境した取り組みなど、様々な境界線を見つめ、互いの境界線を行き来しながら、“インタラクティブな関係性”(インタラクティブ=相互作用)をキーワードに、共にリサーチし発信していくプロジェクト。

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